妹を守ろうと

 

これは知り合いの女性から聞いたマジで洒落になってない話です。

 

一部変更してありますが、ほとんど実話とのことです。

 

その女性(24歳)と非常に仲のいいA子が話してくれたそうです。

 

A子には3歳年上のお姉さんがいました。

 

姉妹仲もよく、A子は短大のことや彼氏のことなどでお姉さんにたびたび相談相手になってもらっていました。

 

その日の夜、お姉さんがお風呂からあがり、居間で父親や母親、そしてA子さんたちと雑談していました。

 

パジャマ姿のお姉さんはしばらくして2階の自分の部屋へと引きあげていきました。

 

A子さんは自分もお風呂に入ろうとしたのですが、就職のことでお姉さんに相談したいことがあり、お姉さんの部屋へいきました。

 

ドアをあけると、お姉さんは化粧台の鏡に向かって髪をとかしていましたが、鏡に向かったまま、

 

「A子ちゃん、お父さんとお母さんのところへ行ってなさい!」

 

と静かに強い口調で言ったそうです。

 

「でも、お姉ちゃん、ちょっと話があるんだけど・・」

 

と言ったものの、いつにないお姉さんのこわい口調にA子さんはすごすごと居間に引き返したそうです。

 

その後、惨劇が起こりました。

 

お姉さんが座っていた背後にはベッドがあるのですが、その下に包丁を持った男が潜んでいたのです。

 

お姉さんはその男に無惨にも刺し殺されてしまったのです。

 

犯人はストーカーでしたが、お姉さんは化粧台で髪をとかしているときに、鏡越しに犯人を見てしまったのですね。

 

それで、妹を守ろうとしたのです。

 

この事件は新聞でも報道されました。

 

合掌

 

 

 

 

派出所で起きた謎

 

俺は、K県Z市という所に住んでいる。

 

隣がM市なんだが、今から20年以上前の話だ。

 

M市の国道沿いに、派出所があった。

 

中学生だった俺は、結構やんちゃだったので、M市に行っては色々とゴタゴタを起こしていた。

 

ある日、ゲーセンで5人ばかしと乱闘騒ぎになり、ツレと俺は補導されてしまった。

 

その派出所に、若い警官がいたんだ。

 

一緒に捕まったツレと俺を、後に気にしていてくれて。

 

たまに顔を見に来ては、海外のハードロックとか、バイクの話やらの雑談をする。

 

中学のDQNと若い警官の交流だった。

 

秋も深まったとある夜、ツレから電話があった。

 

なにやら慌てている。

 

「お、おい!○○さん、し、死んじゃったぞ!」

 

電話の向こうで、ドモリながら怒鳴るツレ。

 

実はツレの家は、その派出所のすぐ近所にあり、20歩くらい歩くと、派出所が見える位置にあった。

 

「マジ? どないしたんや?

 

事故か?

 

まぁ待っとれ。

 

今からオマエん家に行くわ!」

 

俺はRZ50に乗って、ツレの家に向かった。

 

ツレの家に着く前に、派出所が見えた。

 

赤灯が回ってる・・・。

 

「・・・?何や・・・?」

 

疑問が湧いたが、とりあえずツレの家に直行した。

 

玄関先でツレは待っていた。

 

真っ青な顔をして。

 

「どういう事や?○○さん、この間も会ったばかりやないか?」

 

「お、俺にも分からん!あのなぁ、○○さん、自分で頭ぶち抜いたんや!」

 

「はぁ~?この間、初めての子供が出来たって、○○さん言うてたやん!マジかよ?」

 

「マジや!俺、昼にたまたま○○さんに会って話したばっかりやのに・・・」

 

「変わった事、無かったんか?」

 

「無い!いつもみたいに単車の話して、これから警らに行くって言いよった」

 

その後、二人で派出所に行ってみた。

 

まだ鑑識の奴等が出入りしていた。

 

1人を捕まえて、

 

「○○さん、どないしたんですか?」

 

と、聞いてみた。

 

「うるさい!あっち行っとれ!お前らには関係ないこっちゃ!」

 

と相手にもされず、俺達は追い返された。

 

次の日、俺は、オヤジの親友である、M市の警察官●●さんに電話を掛けた。

 

小さい時から俺を知っているし、色々な犯罪捜査の話もしてくれていたから、きっと何か話してくれるはず。

 

そう思って、オヤジに連絡を取ってもらった。

 

まず、○○さんは遺書さえも残さず、突然自分の頭を撃ち抜いたらしい事。

 

派出所には二人勤務していて、もう一人が20分ほど留守にした間の出来事って事。

 

その夜、同僚と夜釣りに行く約束をしたばっかりだったって事。

 

そして、●●さんの話で一番恐ろしかったのが、その派出所で同じような事例が、二人目だった。

 

しかも、10年後のまったく同じ日に、同じ場所だったって事・・・。

 

実は●●さんは10年ほど前に、その派出所に勤務していた。

 

その日、●●さんもそこに居た。

 

そして、●●さんが20分ほど席を外した間に、一緒に勤務していた後輩が頭を撃ち抜いた。

 

当然、遺書など書いてはいない。

 

その人も悩み等は無く、見合いで知り合った彼女と結婚間近の幸せな時だったらしい。

 

●●さんが所用から帰って来た時には、完全に事切れていたって話だった。

 

その事件があってからしばらくして、その派出所は撤去され、長い間、空き地になっていた。

 

今では某地方銀行のATMの駐車場になり、当時の面影はまったく無くなっている。

 

 

 

 

不思議な同姓同名

 

私が中2のとき、市内一の進学校に私と同姓同名の人が合格していた。

 

新聞でそれを見て勘違いした母の友人とかから、

 

「Mちゃんすごいじゃない!」

 

とお祝いの電話をもらって、

 

「私は来年受験なんです…」

 

と訂正するのを何回かやった。

 

翌年その学校には、恥ずかしながら同じ名前の合格者はいなかった。

 

それから数年後のこと。

 

会社にくる営業さんで私と同じ苗字の人がいて、

 

「うちの妹が私さんと同姓同名。漢字まで同じ」

 

と言われた。

 

ふと上記のことを思い出し、なんの気なしに

 

「もしかして妹さん、私より一つ年上で、◯◯高校出身では?」

 

と言ったら、

 

「なんでわかったんですか!?」と…

 

あなたの妹さんのせいで…

 

マジっすか!?なんかすみません!

 

てことがあったんだけど、ちょいと続きますね。

 

少し前に交通事故に遭いまして、保険屋さんから通院日数等の確認の電話をもらったのね。

 

「通院10日間ということで云々」

 

と言われて、ん?そんなに通ったっけ?とちらっと思いつつ、はいはい返事しちゃってたら、次の日に保険屋さんから再び電話で、通院日数を8日間に訂正したいとのこと。

 

あ、やっぱり…となった私に、保険屋さんが手違いの理由を説明してくれた。

 

同市内に住む同姓同名さんが、やはり交通事故で同病院で同日に初診、私と同じ診断をくだされていて、病院側が間違ってそちらの人の書類を送ってきてしまった。

 

年齢は一つ上だが、誕生日がまだなので数字上は同年齢。

 

最終的に住所の町名以下が違うことで別人であると判明した。

 

「長年この仕事をしてますが、こんな偶然は初めてです…」

 

って保険屋さん謝ってたけど、こっちにしてみりゃ、私、その人知ってる…!ってなった。

 

営業さん変わっちゃったから確認できないけど、たぶん彼の妹さんで間違いないと思う。

 

診察時間がずれれば会えたかもしれないなあ。

 

私の人生をニアミス?していく、不思議な同姓同名さん。

 

次はいつ会えるんだろうな。

 

 

 

 

星になった○○○くん

 

本当は書く事をためらったんだけど、書きます。

 

先月、私の住んでいる千葉市の某マンションで事件が起きてしまった。

 

ノイローゼになった母親が6歳と4歳の子供を刺し殺してしまったのだ。 

 

4歳の子。

 

私にも同じ歳の息子がいる。

 

同じマンション。

 

同じ歳の子供。

 

だから、同じ幼稚園に通っていた子だった。

 

しかも同じ組だった。 

 

ノイローゼになってしまったお母さんとも面識があるし、子供の顔も知ってる。

 

亡くなった○○○くんがかわいそう。

 

子供を殺すなんて許せない。

 

もちろん、そういう感情もあったけれど、一番考えるのは自分の子供の事。

 

とてもとても伝えられない。

 

「おともだちの○○○くんが○○○くんのお母さんに刺し殺されたのよ」なんて。 

 

子供にショックを与えたくない。

 

同じ幼稚園の母親同士で話し合って「○○○くんは遠いところに引っ越した」って

 

説明する事に決めた。

 

息子は、私の説明を息子なりに理解した。 

 

息子は真相を知らない。

 

他の子供たちも。

 

幼稚園の中で、いつも通りに遊んでる。

 

同じ組の子が一人、遠くに引っ越してしまっただけだと思ってる。

 

真相を知っている幼稚園の先生は、ものすごいショックを受けていて 見ている私たちも同情してしまう程だった。 

 

ある日。息子が言った。 

 

「ねえ、○○○くんって星になったんでしょ?」

 

「えっ!?どうして?」 

 

私はドキッとしたけれど、平然を装って聞いた。 

 

「△△ちゃんが言ってた。」 

 

きっと△△ちゃんのお母さんが、△△ちゃんにそう伝えたのだろう。 

 

「そうだよ。○○○くん、星になったんだよ。遠くに行ったんだよ。」 

 

その日は曇っていた。

 

次の日は晴れた日で雲も少なく、夜になると星も見えた。

 

カーテンを開け、空を見上げ、息子が言う。星を見てる。 

 

「○○○くん、あの中のどこにいるんだろうね」 

 

私はやりきれない気持ちになって、息子の後ろから一緒になって星を見ていた。

 

それまでは自分の息子にショックを与えないようにと、 そればかりを考えていたけれど、この時初めて○○○くんの事を思った気がする。

 

星を見上げながら、涙が溢れてきた。

 

それからは、星が見える夜になるたび、息子は○○○くんを探そうとした。 

 

しかし、ある日、息子が言ったのだ。 

 

「ねえ、□□くんがね、公園で○○○くんに会ったんだってー」 

 

私はまたも、平然を装った。 

 

「あら。本当?」

 

「うん。星にお引越しして寂しくなったから遊びに来たのかな?」

 

「そうね。」

 

「□□くんがね、公園で○○○くんに会ったんだよ」 

 

息子は同じ事を繰り返して言った。

 

でも、続けて言った言葉に私はショックを受ける。 

 

「なんかね、泣いてたんだって。」 

 

草木もあり、子供が遊ぶには広い公園。

 

公園の入り口から遠い所に○○○くんが泣いていたと言う。

 

走って近づいていったら、いなくなっていたらしい。

 

□□くんがウソをついたのか、本当に昼の公園で会ったのか。

 

私には分からない。 

 

泣いていた○○○くん。

 

刺されて痛かったでしょう。

 

その相手がおかあさんだなんて、辛かったでしょう。 

 

亡くなった○○○くんが公園にいた事よりも、 私は彼が泣いていた事の方が気になってしまった。

 

こんな事件は起きないで欲しい、もう二度と。 

 

 

 

 

裏稼業の人間

 

某チェーン店の居酒屋でバイトしてた頃の話。

 

Mさんという40代の常連がいた。

 

常連といっても、俺がバイトを始めた頃から店に一人でやってくるようになったのだが、ほぼ一月ほどは毎晩のように通ってきた。

 

何でも、居酒屋近くのビジネスホテルに滞在しているらしく、だいたい閉店間際にふらりとやって来て、本人定番のつまみを注文する。

 

それでお互い顔を覚えて、いつしか気安く対応する間柄になっていた。

 

何せ小さな店舗で、オヤジ系居酒屋だったこともあって、カウンター内で洗い物をしているとよく話し掛けてきた。

 

いつものようにモツの煮込みを出すと、Mさんは気味の悪い話を始めた。

 

若い頃にヘマをしでかし、その筋の方に拉致されて、ダムの工事現場に連れて行かれた時の話だそうだ。

 

Mさんは普通の労働者とは違って、飯場のような所に軟禁させていたらしい。

 

そこには似たような境遇の人たちが十人ほどいたという。

 

場所は人里離れた山の中。

 

食事の支度は飯炊き女(50代)がまかなっていたそうだが、当然食材は近くの村から配達してもらったという。

 

ある夜、工事現場に繋がる唯一の道路が、大雨で不通になってしまった。

 

復旧の目処がたたないうちに、三日が過ぎたそうだ。

 

蓄えていた食料も底を尽き、全員パニックに陥ったらしい。

 

その時みんなが目をつけたのは、飯炊き女が残飯を食べさせていた雑種犬。

 

Mさんは詳しく話さなかったが、とにかくその犬を食べて飢えをしのいだという。

 

「それからなんだよ。動物って分かってんのかね?俺を見たらどんな犬も吠えやがるんだ。睨みつけてよ」

 

俺もMさんが裏稼業の人間であることは薄々分かっていた。

 

相手は店の客だし、深い付き合いにはならないつもりでもいた。

 

でもMさんは俺のことを気に入ったらしく、仕事が終わったら飲みに行こうと誘ってくるようになった。

 

最初は断っていたが、ある夜。すすめられたビールで少し酔った俺は、誘いに応じてしまった。

 

「顔の利く店があるから」

 

Mさんは、東南アジアからタレントを連れてくるプロモーターだと自称していたが、実はブローカーだった。

 

連れて行かれた店もフィリピンパブ。

 

かなりきわどい店だったが、貧乏学生だった俺は結構楽しんでしまった。

 

Mさんは女の子と延々カラオケを歌っていたが、俺はカタコトの英語で片っ端から女の子を口説いていた。

 

一人すごくかわいい女の子がいて、その子にも話し掛けようとした時、Mさんは突然マイクを置いて、テーブルに戻ってきた。

 

「その子はだめだぞ。俺のお気にだからな」

 

Mさんの目は笑っていなかった。ぞっとするくらい凄みがあった。

 

回りも雰囲気を察して、場はしらけたようになった。

 

俺も萎縮して、すっかり酔いが覚めてしまった。

 

Mさんは何も無かったように、再びカラオケで歌いだした。

 

その姿を黙って見ていた俺に、さっきのお気にの女の子がつたない日本語で耳打ちしてきた。

 

「店ノ女ノ子、全部アイツ嫌イ」

 

「何で?」と俺が訊ねると、

 

「ワカラナイ。デモ、ナンカ見エル時アルヨ」

 

「何が?」

 

「死ンダ女ノ子ネ。イッパイ見エルヨ」

 

俺は思った。

 

Mさん。分かるのは犬だけじゃないみたいだぞ。

 

 

 

 

一軒家の女

最初にいっておきますがそんなに怖くはないと思います。

自分が生まれて初めて経験した心霊?体験です。

ある日、勤めていた会社の社長から呼び出されて異動を命じられました。

隣の市にある営業所の所長に任命するとのこと。

簡単に言えば栄転です。

なんと引越し費用も会社負担でということなので妻も喜び、早速引っ越し先を探すことに。

が、家賃等の折り合いがつかずなかなか見つからない。

そんな中、妻がいい物件みつけたよと言ってきたのがとある賃貸の2階建ての一軒家。

建てられてから結構な年数は建っていましたが、1階部分はリフォーム済み、家賃も相場よりかなり安い。

しかも庭とガレージ付き。

トイレやお風呂も完全な新品になっていると。

これは最高だと早速、不動産屋に頼んで内覧させてもらうことになりました。

まずは1階。

リフォームしたばかりで綺麗でした。

1階部分の間取りは話に関係ないので省きます。

2階が問題だったのです・・・。

2階は階段上がって正面がトイレ、右に和室8畳、さらに奥に和室8畳という間取りでした。

この奥の和室は仏間だったようで、仏壇を置くスペースもありました。

この和室に入った途端、違和感がありました。

なにかに見られている・・・。

これが一番最初に感じたことでした。

妻もなにか感じたようでそれからすぐに内覧は終わらせました。

妻曰く、条件は最高だけど2階の奥は怖いと・・・。

とりあえず、不動産屋には保留にしてもらい、会社の先輩に相談しました。

先輩の奥さんが見える人だと聞いていたので。(自分はまったく信じていなかったけど。)

結果、一緒に見に行くと言ってくれたんです。 ただ奥さんも忙しく平日の夜しか空いていないと。

それでもいいのでとお願いしていくことになりました。

住所を伝えた時のここかぁ・・・て言葉がやけに気になりましたが・・・。

夜、22時くらいに一軒家の前に着き車から降りました。

妻や先輩、奥さんが庭を見ている時にやはり視線を感じたんです。

2階からなにか見ている。

見ちゃいけないと思いつつ2階を見上げたら・・・

ぼんやりと2階が明るくなってました。

あれ? 2階明るい? 内覧の時電気つけたっけ?

そんなことを考えていたら人影が見えました。

2階の窓から誰か見下ろしている!

人影がだんだんはっきりしてくる!

髪がありえないくらい長い女だとはっきりわかりました。

冷や汗ダラダラでまったく動けない。

目が逸らせない。

そのうち左腕がゆっくり上に動き始めたんです。

「大丈夫?」

奥さんに声を掛けられて我に返ったとき、2階は真っ暗でした。

「ここやめたほうがいいよ。早く帰ろう。」

すぐにその場から離れました。

・・・結論から言うと今は別のアパートを借りて住んでいます。

あの時、奥さんはすぐに自分の様子がおかしいことには気づいたらしいです。

そして、慌てて声を掛けたと。

「私はあそこの地区前から好きじゃないのよ。あそこにいたのがなにかわからないし、正直わかりたくもない。」

引っ越しが終わってから奥さんはそう言ってました。

これが自分が生まれて初めて体験した心霊?体験です。

心霊動画撮影

これ信じてもらえるかどうか分からないし、書こうかどうか迷っていたのだが…

丁度1年ほど前、俺と友人のTとOは、Oが「ニコ動に釣り動画つくってうpしようぜwww」と言ってきたので、買ったきり殆ど使っていなかったOのビデオカメラを持ち出し、俺の親の車を借りて山の中へ出かける事になった。

誕生日の関係で、18になっていたのが俺だけで、免許を俺しかもっていなかったから。

どんな釣り動画かというと、俺とTが録画しながら心霊スポット探索をして、ほんの一瞬女装したOが画面内に映りこみ、俺とTはその事に全く気付かないまま動画をうpという設定。

今考えるとほんとうにしょうもない内容だが、当時の俺達はノリノリだった。?

ただし3人ともビビりだったため、ほんとうの心霊スポットでは無く、ただそれっぽい山の中へ行き、そこで録画する事になった。

午後4時頃に出発し、適当に山道を走らせていると、いい感じに舗装されていない林道を発見した。

その道を少し進むと開けた場所があり、何かの資材置き場のようになっていて、俺達はそこに車を止めると、まず周辺で演出に使えそうな場所はないか、Oが隠れ潜めるような場所はないか、色々と探し始めた。

30分ほど辺りを探し回っていると、俺は資材置き場の先の森の中に、ボロボロの小屋があるのを発見した。

TとOにその事を話し、俺が「ここで良いんじゃね?」と聞くと、Oはさいしょ「ここに1人で待機って気味悪りぃよ…」とゴネていたが、俺とTは「言いだしっぺはお前だろwww」などとからかい、

「まあ待機と言っても10分くらいだから」

とOを宥めて納得させ、完全に暗くなるまで車の中で待機する事にした。

車の中でゲームをしたり話をしながら2時間ほどが過ぎ、辺りは完全に真っ暗になった。

そして、OがTの姉貴の部屋から無断で持ち出してきた服に着替える間に、俺とTは、適当にでっちあげた心霊スポットの話をしながら、あちこち撮影を始めた。

まず10分ほどそんなこんなで録画をし、Oも準備が出来たということで、本命の釣り部分の撮影を開始した。

俺とTは笑いをこらえながら必死でビビる演技をしながら、Oの隠れている建物へと近付いていったのだが、あと10mくらいまで近付いた時、Oが突然

「やばいやばいやばいやばいやばい!」

と叫びながら、小屋の影から飛び出して来た。

俺とTは最初ぽかーんとしていたが、Oがあまりにも必死な形相なため、俺達もつられて全速力で逃げ出した。

広場の車のところまで来ると、Oは自分がまだ女装している事すら気にせずに、

「早く車出せって!ここはやばい!早く逃げねーと!」

と、俺を運転席に押し込んで、自分は後部座席に乗り込んだ。

俺とTは何がなんだか解らなかったが、ひとまず車を発車させ、もと来た道を戻り始めた。

暫らく車を走らせ、もう少しで舗装した道路に出る辺りまで来た頃、異変が起きた。

車の天井に、何かが落ちてきたようなドン!という大きな音がした。

俺は親の車を傷つけたら洒落にならないため、一端車を止めて何が起きたのか見ようとすると、

Oが

「止まるな!確認なんて後で良いからとにかく走らせろ!ここはやばい!」

と、俺が外へ出るのを止めたため、仕方なく走らせようとしたとき、助手席にいるTが俺の腕を引っ張りながら、「おい…あれ」と、助手席側の窓を指差した。

Tの指差しているところみて俺は絶句した。

森の中から、大勢の人がこちらへ向かって歩いてくる。

人数は20人くらいはいただろうか。

全員下を向いてうつむいたまま、ゆっくり歩いているはずなのだが、見た目以上のスピードで車へと接近してくる。

俺は全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、全身に嫌な汗が流れ始めた。

ただ人が歩いてくるだけなのだが、俺にはそれが物凄く恐ろしいものに見えた。

俺は車を急発進させ、後は3人とも無言だった。

暫らく走っていると、遠くにドライブインらしい明かりが見えた。

俺はTとOに「とりあえずあそこに入るか…」と言い、2人は無言だったが、そのままドライブインの駐車場に車を止めた。

そこであらためOに事情を聞くと、ようやく自分が女装している事を思い出したのか、「とりあえず着替えさせてくれよ」と言った。

そこで3人とも緊張感が解けたのか、車内の空気が正常に戻った。

3人とも落ち着いてきたため、ドライブインの自販機でコーヒーなどを買い、そこでOに、あらためてあの時何があったのかを聞いてみるた。

Oの話をまとめると、

Oは俺達が来るまで小屋の裏手で待機していたのだが、小屋の反対側から人の声がしたため、俺たちだと思い、予め打ち合わせしていた小屋の窓のところに移動して、俺達が来るのを待っていたらしい。

しかし、いつまで経っても俺とTがこないため、一端道の方へと顔を出した。

すると、道の真ん中にぼさぼさの頭のおばあさんが立っており、こちらをニヤニヤと笑いながら見ていたとか。

Oはちょっと気味悪かったが、お婆さんにそこにいられると段取りが狂うため、

「すいませーん、ちょっとの間で良いので、どいていてもらえませんかー?」と聞いたのだが、

お婆さんはにやにやとOを見て笑っているだけで、何の反応もない。

Oはちょっとむかついて、お婆さんのすぐ近くまで行き、「ちょっと、2~3分でいいからどいていてくれよ!」と、強い口調で言ったらしい。

するとお婆さんは、にやにやした表情のままOの腕を掴み、そのまま森の奥へと連れて行こうとしたとか。

Oは「何するんですか!」と言って抵抗したが、老人とは思えないほど強い力で引っ張られ、ずるずると奥のほうへと引き摺られていった。

そして、森の奥のほうからは、大勢の人がOのほうへと向かって歩いてきたとか。

Oはそこで身の危険を感じ、お婆さんを蹴りで突き飛ばして、そのまま俺達の方へと逃げ出し、途中で俺達と合流したという事だった。

それが人だったのか、それ以外のものだったのか、Oには分からなかったらしいが、とにかく、普通ではない集団であったのは間違いがなかったと思う。

なぜなら、俺達が戻る途中でみた集団も、なんと説明したら良いのか、とにかく異様な雰囲気がしていたから。

何か釈然としない状況ではあったが、動画作成にも事実上失敗し、時間も時間だったため、その日はこのまま解散となった。

それから夏休中、俺とTとOは何度かつるんで遊んだりしていたが、あの日の事はなんとなく3人とも話せずに過ごしていた。

そんなある日、俺が友達と朝までカラオケをして、午前5時頃に自転車で家への帰り道を走っていると、大通りの道の反対側にOをみつけた。

Oは両手でお盆をもっているようで、良く見てみると、どうやらお盆の上に、水か何かの入ったガラスのコップを乗せているようだった。

俺は、あいつ何やってんだ?と思い、「おーいOどうした~?」と呼びかけたのだが、聞こえていないのか全く反応が無い。

そのままOは十字路を曲がるとどこかへ行ってしまった。

その日の午後2時頃、俺はOからの電話で目を覚ました。

Oが言うには、『電話では説明が難しいからとにかくうちへ来て欲しい』と言う。

Oの家につくと、Tもいた。

そして、Oは俺とTにまずこれを見てくれと言い、あの日録画した動画を見せた。

その動画を見ていて、Tが「どういう事だ?なんだこれ?」と言い出した。

俺も口には出さなかったが、Tと同じ感想だった。

なぜかというと、俺達は確かにあちこちを録画して回ったはずでその記憶もあるし、逃げ出したときの記憶もある。

当然3人とも記憶に不一致は無い。

しかし、動画内で俺達はなぜかずっと車の中におり、ビデオカメラは後部座席に固定されている。

動画が流れ始めて20分くらい、なぜか俺達が無言のまま座席に座っているところが映し出されていた。

動画が20分を過ぎた頃、後部座席にいたOがドアを開け、やはり無言のまま外に出ると姿が見えなくなった。

そしてそこから5分ほど過ぎた頃、俺とTもドアを開けると外に出て、動画には誰もいない映像がそこから10分ほど映されていた。

動画の中で、俺達は一言も会話をしていなかった。

聞こえてきていたのは、ドアを開ける音や、外からかすかに聞こえて来る虫の声のみだった。

そこで一端Oが動画を止め、俺とTに「どう思う?」と聞いてきた。

俺は「どう思うと聞かれても…なんだよこれ…」と答えるしかなかった。

動画の中で俺とTとOは、俺達の中にある記憶とは全く違う行動をしている。

そんなものどう答えたら良いのかなんて分からない。Tも当然同じ意見だった。

Oは「そうだよな…でさ、この後の映像も変なんだよ…」と言い、停止していた動画を再生し始めた。

暫らく誰もいない車内と、フロントガラス越しに見える外の景色が映っていたのだが、更に4~5分すると、車の前方の方に人影が見えた。

その人影はどんどん車の方へと向かってきており、暫らくするとそれが、ぼさぼさの髪のおばあさんである事が分かった。

Oはそこで、「こいつだよ、こいつ!俺の腕掴んで引っ張ったの!」と少し興奮気味に言い出した。

そのお婆さんは、暫らく車のボンネットに手を着くと、にやにやと笑いながら車内を見ていたが、すぐにもと来た道へと戻っていった。?

おばあさんが見えなくなった直後頃、動画に変化があった。

急に俺達が騒いでいる声が聞こえ始め、「やばいやばい!」と叫ぶOと、何が起きたか解らないまま動揺している俺とTが映し出された。

それは本当に唐突で、まるで車の付近にずっと待機していて、急に慌てる演技をし始めたかのような不自然さだった。

そこからの映像は、車を発進するまでしか録画されていなかったが、間違いなく俺達の記憶にある映像だった。?

しかし、一つ不思議な事があった。

Oは録画直前に女装したはずで、元の服に着替えたのはドライブインについてからだ。

しかし、なぜか動画内のOは普通の服のままだった。一体Oはどこで服を着替えたのか…

何もかもが不自然でおかしい。

俺達の記憶と全く違う内容の動画に、3人とも完全に混乱してしまっていた。

動画を全て見終わってから、Oは「でさ、今日のことなんだが…」と話し始めた。

「昨日の夜に寝てさ、今日気が付いたらなぜか○○川(地元の比較的大きな川)の橋のところで、お盆の上に水の入ったコップを乗せて立っていたんだよ。

俺そんなことした記憶全く無いのに…」

俺は今朝の出来事を思い出し、TとOにその話をした。

Oに話しかけたが、全く気付く様子がなかったという事を。

それからOはこう続けた。

「それでさ、わけわからないまま家に帰ってきたら、急に“あの動画を見なければいけない”という気持ちになって、それで見たらあの状態だったからさ…

少し悩んだけど、お前達にも見せたほうが良いと思って呼んだ訳」

そこでTがこう言った。

「この動画のフラッシュメモリーさ、このままにしておくのヤバくね?

お払いとかしてもらったほうがいいんじゃないか?」

俺とOもそれには同意見で、早速近所のお寺に、ビデオカメラと問題の動画の記録されたフラッシュメモリーを持ち込み、和尚さんに事情を話した。

和尚さんは半信半疑で俺達の話を聞いていたが、動画を見せると暫らく考え込み、「このカード暫らくあずからせてくれないか?」と言って来た。

俺達はこんな気味の悪い物をもう手元に置いておきたくなかったので、二つ返事で同意すると、フラッシュメモリーを和尚さんにあずけ、携帯の連絡先を伝えると、お寺を後にしてその日は解散した。

翌朝、俺は混乱していた。?

朝目がさめると、昨日のOと同じようにお盆の上に水の入ったコップを乗せ、○○川の橋の上に立っていたから。

そして、その横には放心状態のTもいた。

Tは何度か呼びかけても返事がなかったが、肩をゆするとハッとした顔をして俺の方を振り向き、

「俺今何してた?ここどこ?????」と言い出した。

俺は昨晩家の布団の中で寝て、それから今まで起きていなかったはず。

Tも同じ状況だったにも関わらず、気が付いたらここにいたらしい。

俺は気味が悪くなり、ひとまずOに電話をした。

Oは寝起きで最初寝ぼけていたが、事情を話すと俺の家まで来てくれた。

そして、3人で相談してもう、一度昨日のお寺へ行って事情を話す事にした。

お寺に着くと事情を分かっていたからか、和尚さんはすぐにあってくれた。

3人に起きた事を和尚さんに話すと、和尚さんは腕組みをして暫らく考え込んでいたが、何か思い出したかのように暫らく席を外すと、お守り袋を3つもって戻ってきた。

そして俺達にこう言った。

「3人とも、もうこの事は忘れなさい。そして、このお守りを1年間肌身離さずもっていなさい。

そうすれば、今日あったようなことはもう無いはずだから」と。

そして、「フラッシュメモリーだっけ?これは引き続きうちであずからせて欲しい。それでいいか?」と聞いてきた。

和尚さんは何か俺達の身の上に起きた事情が何なのか、何となく分かっていそうだったが、結局俺達にはなにも教えてはくれなかった。

俺達もその事を深くは追求しなかった。

というより、しないほうが良いと感じた。

ただし、和尚さんは一つだけある事を教えてくれた。

まず、俺達に「その資材置き場のような場所か小屋の近くに、川はあったか?」と聞いてきた。

Oが「覚えている限りではなかったと思うけど…」と答えると、和尚さんは「そうか…」と言って、続いて、なぜ俺達が無意識に水の入ったコップをもって外に出たのか、憶測を交えながら話し始めた。

どうやら俺達は、何か呪いの一種のような物をかけられていたらしく、その呪術の続きを川伝いに俺達へと、何者かが送り込もうとしていたらしい。

その何者かが人なのか、それともそれ以外の何かなのか、それは和尚さんは教えてくれなかったが、とにかく、川を通ってやってきた呪いの受け口となっていたのが、そのコップと中に入った水らしい。

俺達は呪いの元に誘導されて、寝ているうちに家にあるコップに水を汲み、川へと呪いを受け取りに行っていたという事だった。

このまま何の対策もせず、俺達が呪いの続きを受け続けていたら、その後どうなっていたかは、和尚さんにもわからないらしい。

ただし、「無事ではすまなかっただろう事は確実だ」とも言っていた。

このお守り袋は大した力は無いらしいが、少なくとも、俺達の居場所を呪いの元から分からなくすることができるらしい。

そして、1年もすれば呪いの痕跡そのものが消えるため、俺達が操られる事も無いのだという。

お守り袋を貰うと、俺達は特に根拠があるわけではないが、不安感から多少なりとも開放され、何かほっとしてそのまま各自家に帰った。

それから俺達は高校を卒業し、進路もばららばとなり、俺は都内の大学に進学した。

TとOとは今でも連絡を取り合っているが、あの日の事は話題に上がることは殆ど無い。

和尚さんに言われたとおり、お守り袋は今でも肌身離さずもっているせいか、あれ以来俺達に、記憶の喪失やおかしな出来事は起きていない。