友人のイタズラ

 

これは私が18歳の時の出来事です。

 

当時、仲の良かった友達のグループがあり、私はその子たちと毎日のように一緒にいました。

 

その中でもとくに仲がよかったFとは、他のメンバーとは少し違った特別な親密感がありました。

 

けれどFはある日突然、帰らぬ人となったのです。

 

Fの死をしっかり受け止められないまま、けれど日がたつにつれて私は少しずつ元気を取り戻していきました。

 

Fの葬儀から2ヶ月ほどたった日のことでした。

 

私が夜、自分の部屋で眠りに落ちそうになった時、暗闇の中で飼い猫が本棚に向かってシャーっと牙をむき威嚇する行為をしたのです。

 

私はウトウトしながらも、飼い猫が何に対して威嚇しているのか不思議に思いました。

 

虫でもいるのかな?

 

でも虫に威嚇する?

 

そんなことを思いながら本棚をぼんやり見ていると、フワッと白い影のようなものがそこに見えたのです。

 

今の何?

 

そう思いながらもはっきりとは目が覚めず、とうとう眠りに落ちそうになった瞬間、私は金縛りにあいました。

 

体は全く動かず、声も出せません。

 

息も苦しく、恐怖でいっぱいでした。

 

しかし、本当の恐怖はここからでした。

 

なんと、私の頭上から2本の腕がのびてきたのです。

 

その手の平は私の顔の上まできました。

 

やめて!消えて!

 

私は心の中で叫び続けました。

 

それでもその手は私の顔の上でユラユラ動き続けます。

 

私はどうにかこの状況から抜け出したく、声を出そうともがきました。

 

そして極度の恐怖心と緊張状態のせいなのか、声を出そうと力が入りすぎたのか、私はその場で寝ながら嘔吐してしまったのです。

 

すると私の部屋のドアが開きました。廊下の灯りも見えました。

 

「Mちゃん(私)どうしたの?」

 

母が部屋に入ってきたのです。

 

自分では分からなかったけれど、うめき声くらいは出ていたのかもしれません。

 

気付けば金縛りも解けていて、あの2本の腕もありません。

 

私は安堵し泣き出してしまいました。

 

体の緊張はなかなか抜けず強ばったまま起き上がることもできませんでしたが、私はベッドサイドで心配そうに立つ母に、今起こった出来事と嘔吐して布団を汚してしまったことを話しました。

 

けれど、話ながらなぜか違和感でいっぱいでした。

 

金縛りは解けたのに緊張状態の体、そして一度は安堵したはずだったのに、なぜか胸のざわつきがおさまりません。

 

次第に背中がゾクゾクし始め、再び言い様のない不安と恐怖に襲われました。

 

違う!ここにいるのはお母さんじゃない!

 

そう思った瞬間、母の顔が恐ろしく変わりました。

 

鬼の形相とでもいいますか、とにかく見たこともないような姿でした。

 

怖い!怖い!助けて!もう本当にやめてよ!!

 

また金縛り状態になった私は心の中で叫ぶことしかできませんでした。

 

すると、突然ふと金縛りが解けたのです。

 

体も動くし声も出ました。

 

私は急いで布団から出ると母の寝室へ向かいました。

 

さっきの出来事は何だったのだろうか、もしかして夢?

 

そう思いながら私は母の寝顔をのぞきこみました。

 

いつもの母でした。本当に心から安堵しました。

 

そして母に怖い夢を見たから一緒に寝てほしいと伝え、私は母の布団にもぐりこみ、あれこれ考えながらも母にしがみつきながら眠りにつきました。

 

今度は夢を見ました。

 

2ヵ月前に亡くなったFの夢でした。

 

Fは私の枕元に立って笑っていました。

 

「M、イタズラしてごめんね。M怖いの苦手だったからちょっとだけイタズラ。」

 

Fは笑いながらそう言いました。

 

「全然ちょっとじゃないよ。」

 

私がそう答えてからは、Fは何も言わず私を見つめています。

 

「F、どうして死んじゃったの?」

 

私が聞くとFは何も言わず、私に背を向けて歩き始めました。

 

「F、どこ行くの?」

 

私の質問には答えず、Fは歩き続けて遠くへ行ってしまいました。

 

そこで目が覚めました。夢か現実か分からない不思議な感覚でした。

 

翌朝、母に事の一部始終を話すと、私が葬儀の後一度もお線香をあげに行っていないことを指摘されました。

 

Fは寂しかったのでしょうか。

 

私はすぐにFの家に行き、お線香をあげて謝りました。

 

Fの死を悲しむあまり向き合うことを避けていた私、それをFは悲しんでいたのかもしれません。

 

ちょっとイタズラでもしてこらしめてやろうと思ったのかもしれません。

 

20年経ちましたが、今も忘れられない出来事です。