真相を話すと死が伝染する怪奇

 

俺が高校2年生の時、クラスメートのM子が他界した。

 

原因は白血病と言われていた。

 

彼女の家は千葉県の市川にあり、電車で1時間以上もかけて葬式に出向いた。

 

俺は、M子とは大して仲が良くなかったこともあり、焼香を済ませると早々と家路についたが、仲が良かった生徒たちの何人かはしばらく残っていたようであった。

 

クラスは深い悲しみに包まれたが、次第に元の明るさを取り戻し、一女生徒の死はいつの間にか忘れ去られていった。

 

そして今振り返れば、瞬く間の3年間は過ぎ、俺は高校を卒業した。

 

もはや俺の頭からは、若くして一生を終えた女性のことはすっかり無くなっていた。

 

俺はその後、大学生活を経て就職し、それなりに忙しい日々を送っていたが、ある時、高校時代のクラスメートと偶然再開した。

 

彼女の方から声をかけてきたのであるが、彼女は高校時代からのぽっちゃりした顔からは、想像もできないほど痩せており、声をかけられなければ、たぶん分からなかっただろう。

 

いや、痩せたというより、やつれたというのが正直な感想であった。

 

懐かしいね、と軽い挨拶を済ませたあと、折角だから少し話そうということになり、近くの喫茶店へ入った。

 

現在の状況など、お約束の話を一通り済ませると、

 

「ねえ、M子のこと覚えている?」

 

と彼女は訊いてきた。

 

「M子?ああ、白血病で亡くなったM子ね」

 

「そうそう」

 

同時に彼女がM子と仲が良かった生徒であることも思い出した。

 

「かわいそうだったよね」

 

「うん、実はね・・・」

 

彼女は顔を深刻そうにしかめた。

 

「実は彼女、白血病じゃなかったのよ」

 

「へー、違う病気だったの?」

 

俺は彼女の話に、特に興味を示さなかった。

 

正直に本当の死因を知られたくないようなことは、ままあるからだ。

 

しかし、俺の気持ちとは裏腹に、彼女は顔をより一層深刻そうにして言った。

 

「ちょっと聞いて欲しいのよ」

 

「うん、別に構わないよ」

 

今日は既に仕事は終っている。

 

俺は彼女の只ならぬ雰囲気を感じ取った。

 

彼女の話した内容は、およそ次の通りであった。

 

一昨年の暮れ、突然M子の母親から連絡があって、

 

M子の七回忌に来て欲しいと言われた。

 

是非にと言うので、仲も良かったことだし法事へ参加した。

 

この法事はM子の七回忌だけでなく、M子の父親の一回忌でもあった。

 

法事が一段落すると、M子の母親に折り入って話があると言われ、

 

二人だけで家の一室に入った。

 

そこは、かつてM子の部屋であった。

 

少しばかりM子の思い出を語ったあと、母親が意外なことを言い出した。

 

いわく、M子の死の真相を聞いて欲しいと。

 

そして母親は話し始めたが、二言三言話した時、緊急の電話が入ったと親族から呼ばれ、

 

母親は話を中断せざるを得なかった。

 

再び部屋に戻ってきた母親は、詫びを言ってから話を始めようとしたが、親族の子供が突然ひきつけを起こしてしまい、またもや続きを話すことができなくなった。

 

結局、その日は時間切れで、話は後日改めてということになった。

 

彼女はここまで話すと、フッと息をついた。

 

「時間は大丈夫?」

 

俺は、いつの間にかM子について、興味が湧き上がっていた。

 

「大丈夫だよ」

 

「それから暫くは、M子のお母さんから連絡がなかったの。

 

こっちから連絡するのも何か気が引けて」

 

「・・・うん」

 

俺は相槌を打つのみであった。

 

「私もそのことは忘れていたんだけど、去年、連絡が来たの。

 

1年ぶりくらいにね。

 

それで、またM子の家に行こうとしたのよ」

 

その後、彼女は次のようなことを話した。

 

約束した日に彼女は急用が入り、M子の家に行けなくなってしまった。

 

彼女は電話で話せないかと聞いてみたが、どうしても会って話したいという。

 

日を改めて、彼女はM子の家に向かった。

 

そしてM子の母親は、まずこの話から聞いてくれと口を開いた。

 

実はM子の死は予想外のことで、母親は看取ることができなかったという。

 

亡くなった旦那さんがM子を看取ったのだが、しばらくして、旦那さんからM子の死因を知って欲しいと言われた。

 

しかし旦那さんがそれを話そうとすると、ことごとく邪魔が入り、なかなか聞くことが出来なかった。

 

ついに死因を聞いたのは、旦那さんがそれを喋ろうとしてから実に半年以上も経った後だという。

 

旦那さんは、その翌日に急死した。

 

そして、いよいよ本題に移ろうかという時、

 

来客があった。

 

無視できない人らしく、母親は暫く応対して、彼女の元に戻ってきた。

 

この時には彼女も『何かある』と思い始めていた。

 

母親は彼女の前に座ると、どこまで話しましたっけ?と聞いた。

 

旦那さんがお亡くなりになったところまでです、と答えると、母親は、あら、そんなところまでお話しましたかしら、と意外な顔をしたのである。

 

「もう、気味が悪くなっちゃってね・・・」

 

「それで、話は聞けたの」

 

彼女は首を振った。

 

「その後、何故かM子の思い出話になっちゃったのよ。

 

自分でも訳が分からない。

 

気がついたら夜になっていて、家に帰った」

 

「結局、聞けず終い?」

 

彼女はしばらく沈黙した。

 

俺は、すっかり冷めたコーヒーを飲み干すと、

 

「場所変えたほうがいいかな。時間が経ってるし」

 

と言った。

 

彼女も賛成し、腹も減ったのでファーストフード店に行くこととなった。

 

席を立ち会計を済ませ、店を出る。

 

移動中に俺の携帯が鳴った。

 

友達が事故に巻き込まれたので至急来て欲しい、という連絡であった。

 

彼女の話には後ろ髪を引かれたが、現場へと向かうしかない。

 

彼女は絶対連絡すると言ってくれ、その場を後にした。

 

友達の事故は大したことはなかった。

 

2日後、家に彼女から連絡がきた。

 

「実はね、あの時は言い出せなかったけど、M子のお母さん、あの日の数日前に亡くなったのよ」

 

「えっ、俺と話したあの日の?」

 

「そう。そして亡くなる前の日に私、M子の死因を聞いたの。

 

ついに」

 

「・・・」

 

「で、その話、やっぱり聞きたいよね?」

 

俺は少しばかり躊躇したが、

 

「確かに聞きたい気持ちはある。でも話すな」

 

と、きっぱり言った。

 

「いいか、誰にも話すんじゃない。忘れるんだ」

 

「ありがとう」

 

彼女の声は少し安堵したようであった。

 

「でも、M子の弟にだけは話さなくてはいけないと思う」

 

「やめておけ、忘れろ」

 

「でも、たった一人残った、M子の家族よ」

 

「知らない方がいいこともある。

 

今度ばかりはその方がいい」

 

「うん・・・」

 

彼女との会話はそれで終った。

 

俺は一抹の不安を隠せなかった。

 

M子の弟は既に成人であるし、家族の死について、疑問を抱いていてもおかしくない。

 

俺は彼女に電話をしてみた。

 

彼女はM子の弟に会ってはいるが、その話はしていないと言った。

 

俺はくどいほど念を押して電話を切った。

 

その後も彼女と連絡を取ろうとしたが、携帯を持っていなかった彼女とは連絡が取れなかった。

 

それから1ヶ月ほどしてからのことである。

 

彼女の死の知らせがきた。

 

彼女がM子の弟に、何を伝えたのかは分からない。

 

 

 

 

餓鬼

 

即身仏で思い出しました。

 

北関東の田舎の、あるお寺のお坊様から聞いたお話。

 

即身仏はなぜ尊いとされたのでしょうか」と、その寺のお坊様は私に尋ねました。

 

「それは『餓え』という生命全てが持つ生存欲を意志の力で越えていく行為ゆえです。

 

大乗仏教では個人的な苦行は否定されていますが、即身仏のみ、自らの餓えを以って他者の餓え、大きな飢饉を贖おうとする、キリスト教的な価値観が見て取れるのです」

 

人間の3大欲求である性欲、睡眠欲そして食欲。

 

餓えとは、その最大の欲求である食欲が満たされない時に発生する、生命体の最大の試練なわけです。

 

最近、育児放棄による乳・幼児の餓死が多数報道されるようになっていますが、実はこうした事例は昔から多くありました。

 

そうして亡くなった方はあまりの食への妄執の強さ故、餓鬼道に堕ちてしまうそうです。

 

それは徳を積んだ高僧が目的を持っての餓死であれば回避できるそうですが、幼く、餓死する必要もない子供であったりする場合、「餓えて死ぬ」と、魂が磨耗してしまうそうです。

 

前世の悪行故に今生で幼くして餓えて死ぬ運命を背負って生まれてきたのだ、という人もいますが、そのお坊様によると、そういう魂はバングラデッシュやアフリカなどの皆が餓えているところに出る、この日本の今の時代に餓えて死ぬというのは、今生で生じた悪縁によるところが大きいそうです。

 

その話は、祖父の何回忌かで、施餓鬼というものをやった時に聞きました。

 

餓鬼道に堕ちた餓鬼に施しを与え、現世に悪さをしないようにする祟り避けの儀式だそうです。

 

その時は、お団子をたくさん作って、お仏壇の前に小さなテーブルを祭壇にして供えました。

 

そのお坊様が来てお経を上げて、

 

「何かを食べる時にはいつも『頂きます』食べ終わったら『ご馳走様』と口に出して言ってください。

 

その感謝の念が餓鬼に届きます」

 

「そう言わない食生活、ただ口に食べ物を運ぶだけの生活をしていると、物を食べていても餓鬼道に近づきます。餓鬼道は私達のすぐそばにあるんですよ」

 

とお話して帰りました。

 

その夜のこと。

 

ふすま1枚隔てて祖父の仏壇の隣の部屋で、母と姉と女3人で寝ていた(父は仕事があるので夕食後に一人で帰りました)のですが、夜中におしっこがしたくなり起きてしまいました。

 

祖母の家は当時まだ汲み取り式で、深い穴がちょっと怖かったのですが、別に3色の手が出てきてお尻をなぜるということもなく、無事におしっこをし終えて部屋に戻ったのです。

 

私は当時確か小学校5年生でした。

 

部屋に戻ると、母と姉を起こさないようにそおっと布団の周りを回って、真ん中に敷いてあった自分の布団に潜り込もうとしましたが、祖母の家で飼っているキジトラの猫が布団の上に寝ていて布団に入れません。

 

その子を抱っこして一緒に布団に入ろうとするとその子はフゥッ!とうなって、隣の仏間に走りこんでしまいました。

 

ああっそっちはお団子が飾ってあるから入っちゃダメだよ!と思って私も隣の部屋に四つんばいになったまま入りました。

 

思えばなぜふすまが開いていたのか。

 

暗い仏間の中心にそのキジトラが座っていて、毛を逆立て、尻尾を太くして、フーウフーと喧嘩をするようにうなっていました。

 

後ろの寝室の常夜灯の茶色い光がふすまの開いた隙間から微かに差し込んでいて、仏間の様子はうっすらとわかりましたが、お仏壇の前に供えていた白いお団子が見えません。

 

あーもうひっくり返しちゃったのか、と思って暗がりの中、よく目を凝らしてみると、キジトラは仏壇をにらんで唸っていました。

 

そしてお団子が見えないわけも判りました。

 

真っ黒い餓鬼が何体も、そのお団子の山に群がっていたのです。

 

赤ちゃんくらいの大きさですが、手足が細く長く、頭とお腹だけが丸々と。

 

それらがお団子を口に?運んでいましたが、食べると青白い火みたいになって、その照り返しで顔がおぼろげに見えるのです。

 

その時はただお化けだ!と思いましたが、後で調べたら、典型的な餓鬼の絵にそっくりでした。

 

3体以上はいました。

 

私はびっくりしてその場で気を失ってしまいました。

 

翌朝早く、布団がなくて寒くて目が覚めると、私は仏間と寝室の間に寝そべっていました。

 

あー寒いと思って布団に戻って、そこで昨晩見たものを思い出してゾクっとして、お仏壇の前に見ると、お団子は全てドロドロに溶けてしまっていました。

 

猫がおしっこを掛けたんだとか言っていましたがおしっこの匂いはしませんでしたので、祖母に昨晩見た話をすると、

 

「そりゃ昔の飢え死にしたご先祖様じゃないの。お腹を一杯にしてもらったから悪さはしないよ」

 

と言ってくれました。

 

でも私には気になることがありました。

 

照り返しでおぼろに見えた顔の中に、小2の時に仲良しだった友達の顔が見えた気がしたのです。

 

彼女は親がパチンコに狂って生活保護を受けていて、幼稚園に通っていませんでした。

 

それで小1の時からいじめられていて、小2で同じクラスになった時に仲良くしていたのですが、小2の年末にご飯も食べさせてもらえずに半裸で家から締め出されて凍死してしまったのです……

 

あの餓鬼の頭でキラっとしたパッチンどめは、彼女のお棺に入れたものだったと思うのです。

 

彼女はもう極楽にいるんでしょうか。いてくれるといいなぁと思います。

 

長文失礼致しました。

 

 

 

 

友人のイタズラ

 

これは私が18歳の時の出来事です。

 

当時、仲の良かった友達のグループがあり、私はその子たちと毎日のように一緒にいました。

 

その中でもとくに仲がよかったFとは、他のメンバーとは少し違った特別な親密感がありました。

 

けれどFはある日突然、帰らぬ人となったのです。

 

Fの死をしっかり受け止められないまま、けれど日がたつにつれて私は少しずつ元気を取り戻していきました。

 

Fの葬儀から2ヶ月ほどたった日のことでした。

 

私が夜、自分の部屋で眠りに落ちそうになった時、暗闇の中で飼い猫が本棚に向かってシャーっと牙をむき威嚇する行為をしたのです。

 

私はウトウトしながらも、飼い猫が何に対して威嚇しているのか不思議に思いました。

 

虫でもいるのかな?

 

でも虫に威嚇する?

 

そんなことを思いながら本棚をぼんやり見ていると、フワッと白い影のようなものがそこに見えたのです。

 

今の何?

 

そう思いながらもはっきりとは目が覚めず、とうとう眠りに落ちそうになった瞬間、私は金縛りにあいました。

 

体は全く動かず、声も出せません。

 

息も苦しく、恐怖でいっぱいでした。

 

しかし、本当の恐怖はここからでした。

 

なんと、私の頭上から2本の腕がのびてきたのです。

 

その手の平は私の顔の上まできました。

 

やめて!消えて!

 

私は心の中で叫び続けました。

 

それでもその手は私の顔の上でユラユラ動き続けます。

 

私はどうにかこの状況から抜け出したく、声を出そうともがきました。

 

そして極度の恐怖心と緊張状態のせいなのか、声を出そうと力が入りすぎたのか、私はその場で寝ながら嘔吐してしまったのです。

 

すると私の部屋のドアが開きました。廊下の灯りも見えました。

 

「Mちゃん(私)どうしたの?」

 

母が部屋に入ってきたのです。

 

自分では分からなかったけれど、うめき声くらいは出ていたのかもしれません。

 

気付けば金縛りも解けていて、あの2本の腕もありません。

 

私は安堵し泣き出してしまいました。

 

体の緊張はなかなか抜けず強ばったまま起き上がることもできませんでしたが、私はベッドサイドで心配そうに立つ母に、今起こった出来事と嘔吐して布団を汚してしまったことを話しました。

 

けれど、話ながらなぜか違和感でいっぱいでした。

 

金縛りは解けたのに緊張状態の体、そして一度は安堵したはずだったのに、なぜか胸のざわつきがおさまりません。

 

次第に背中がゾクゾクし始め、再び言い様のない不安と恐怖に襲われました。

 

違う!ここにいるのはお母さんじゃない!

 

そう思った瞬間、母の顔が恐ろしく変わりました。

 

鬼の形相とでもいいますか、とにかく見たこともないような姿でした。

 

怖い!怖い!助けて!もう本当にやめてよ!!

 

また金縛り状態になった私は心の中で叫ぶことしかできませんでした。

 

すると、突然ふと金縛りが解けたのです。

 

体も動くし声も出ました。

 

私は急いで布団から出ると母の寝室へ向かいました。

 

さっきの出来事は何だったのだろうか、もしかして夢?

 

そう思いながら私は母の寝顔をのぞきこみました。

 

いつもの母でした。本当に心から安堵しました。

 

そして母に怖い夢を見たから一緒に寝てほしいと伝え、私は母の布団にもぐりこみ、あれこれ考えながらも母にしがみつきながら眠りにつきました。

 

今度は夢を見ました。

 

2ヵ月前に亡くなったFの夢でした。

 

Fは私の枕元に立って笑っていました。

 

「M、イタズラしてごめんね。M怖いの苦手だったからちょっとだけイタズラ。」

 

Fは笑いながらそう言いました。

 

「全然ちょっとじゃないよ。」

 

私がそう答えてからは、Fは何も言わず私を見つめています。

 

「F、どうして死んじゃったの?」

 

私が聞くとFは何も言わず、私に背を向けて歩き始めました。

 

「F、どこ行くの?」

 

私の質問には答えず、Fは歩き続けて遠くへ行ってしまいました。

 

そこで目が覚めました。夢か現実か分からない不思議な感覚でした。

 

翌朝、母に事の一部始終を話すと、私が葬儀の後一度もお線香をあげに行っていないことを指摘されました。

 

Fは寂しかったのでしょうか。

 

私はすぐにFの家に行き、お線香をあげて謝りました。

 

Fの死を悲しむあまり向き合うことを避けていた私、それをFは悲しんでいたのかもしれません。

 

ちょっとイタズラでもしてこらしめてやろうと思ったのかもしれません。

 

20年経ちましたが、今も忘れられない出来事です。

 

 

 

 

中古車

 

学生のころあるお店で中古車を買った。

 

10年落ちの白いスカイ○インだった。

 

さびも無く、中もすごくきれいだった。

 

ところが買って間も無く、毎晩変な夢を見るようになった。

 

車に乗ろうとドアを開けて乗り込み、ドアを閉めようとすると床下から出てきた腕に足を掴まれる。

 

それが異常に強い力で、まるで足首に通う血が堰き止められるようだ。

 

しかし普段乗っているときにはこれと言った怪異も無く、ごく普通に通学に使っていた。

 

そんなある日、フロント右側ブレーキ辺りから「キイキイ」と異音が聞こえ出した。

 

部位が部位だけに気になって仕方ない。

 

金もなかったので、行きつけのGSで頼み込んで見てもらうことにした。

 

大きな油圧リフトで持ち上げられた自分の車を横目で見ながら、俺は店内で缶コーヒーを飲んでいた。

 

そこへ顔なじみである、メカニックのM君が駆け込んできた。

 

「Nさん、ちょっと一緒に見てもらっていいですか。」

 

恐る恐る覗き込んだ愛車の下回り。

 

エンジンの真下をくぐり、車体中央へ。

 

そこにはミッションから駆動輪へ動力を伝達する図太いプロペラシャフトが通っている。

 

そしてそのシャフトから伝わった動力を、左右の駆動輪へと分配するためのデファレンシャルが・・・

 

カニックのMはそのシャフトとデフとをフレキシブルにつなぐ部位(スパイダー)を指差している。

 

そこには・・・

 

グリスにまみれ、ぐすぐすになったなが~い髪の毛がごっそりと巻きついていた。

 

 

 

 

お姉ちゃん、早く代わってー

 

さっきの事

 

マジ怖かったのでとりあえずここに書きます

 

私は今高1で小6の弟がいます

 

家はニ階建て一軒家

 

今、訳あって一階の和室で母と弟と3人で寝ています

 

母と弟は既に寝ていて、私も寝ようとして一旦布団に入りました 

 

ですが、寝る前に何か本を読もうかと2階の自分の部屋に取りに行ったんです

 

本を持って階段を降りようとした時、急に尿意を催して2階のトイレに入りました

 

水を流そうとした時、ドアの向こうから声が聞こえました 

 

「お姉ちゃん、トイレ漏れそう、早く代わってー」 

 

と弟の声が

 

そしてドンドンとドアを叩く音

 

鍵はかけてました

 

私は開けようとしましたが、ふと妙に思いました

 

一階にもトイレはあるのに、どうしてわざわざ二階のトイレに…… 

 

「〇〇?(弟の名前)」 

 

……名前を呼んでみましたが

 

無言

 

うんともすんとも言わない

 

そして、もう一つ気が付きました

 

私の家の階段は歩くと必ず音が出ます

 

建て付けが悪いのか、いくらこっそり歩いてもギシギシと。 

 

なのに、それが聞こえなかった 

 

開けようとした鍵に手をかけたまま固まりました

 

何かがいる気配はするんです

 

でも弟じゃない気がして…

 

声も出せませんでした

 

それに、本当に漏れそうなら再度催促するはずです

 

黙って待ってるような子じゃない 

 

開けるのが怖くて、怖くて

 

主観では15分位たったと思いましたが実際はもっと短かったんでしょうね

 

気配がふっ、と消えました

 

トイレで一晩過ごすのも嫌だったのでドアをそうっと開けました

 

誰もいない

 

階段を降りる音はしなかったので、もし弟で私を驚かせようと2階に隠れているのなら殴ってやろうと思いながら階段までたどり着きました

 

弟には会いませんでした 

 

どこかの部屋に隠れているのなら別ですが、2階にいるのが怖かったので私は探そうとはせずに階段を降りました

 

まあ深夜なので寝てる家族にも気を使って音を立てないように歩きましたがやっぱりギシギシいいました

 

和室に入ると、私が出た時と同じように母と弟が寝ていました

 

弟は寝たフリなのかと思い抓ったりくすぐったりしましたが爆睡していました

 

今2人の隣の布団の中から投稿してます 

 

読みにくくて、あまり怖くなかったかもしれませんが私は本当に怖かったです

 

もし声に応じて開けていたら…なんて考えないようにしています

 

読んで下さりありがとうございました

 

 

 

 

大きな袋

 

もう何年も前の体験だ。

 

確か青森県内だった。

 

出張で1泊するために安い宿を探して適当に決めたホテルがあった。

 

そこは口コミもまぁひどくはなかったし、何より安かった。

 

俺のとこは宿泊代が定額で支給されていたから、少しでも安くして出張費を浮かせようとしたわけだ。

 

仕事を終えて夜になり、そのホテルに向かった。

 

古そうな4階建てくらいだったか、妙に細長い建物だった気がする。

 

安宿らしくロビーなんて狭くて乱雑に散らかってる。

 

安っぽい赤い絨毯からは異臭すらした。

 

呼び鈴で受付を呼ぶと年配の男性が現われた。

 

チェックインしてエレベータ・・・このエレベータもまた臭う・・・に乗り3階の自分の部屋に入った。

 

狭い部屋にベッドとデスクと革の剥げた椅子という、ありきたりのビジネスホテルの部屋だ。

 

狭苦しくドブ臭い浴室でシャワーを浴びてベッドに腰掛けようとしてふと気づいた。

 

ベッドが木製だ。その下部は大きな引き出しになってる。

 

物入れ用だろう、連泊するわけじゃないから使うこともないと思ったが、何気なく取っ手を引いた。

 

目に飛び込んできたのが、大きな漢字だった。

 

いや、ツクリは漢字みたいだが、読めない。

 

それは一文字10cm四方くらいの大きな字で、毛筆で布にびっしり書かれていた。

 

違和感をもったが、それ以上は気に留めず俺はそのまま引き出しを閉めた。

 

仕事の整理を終えて、酒が欲しくなった。

 

自販機はロビーだ。エレベータで降りようとしてボタンを押すが、どこかの階で止まったままだ。

 

3階だから階段で降りようとしたが階段が見つからない。

 

何度か折れる薄暗い廊下で探していると、壁と同色で目立たないのだが、薄汚れた白い扉があった。

 

非常口とも書いてない。何となく階段だろうと思い、扉を開けた。

 

廊下の灯りが弱く、中は暗くて見えないのだが、空気の感じでここは部屋ではなく階段だと思った。

 

扉から半身を入れて手探りで電灯のスイッチを見つけて押すと、豆電球が天井で弱々しく点いた。

 

わずかな明かりが辺りを照らし出すと、手前に1m以上はある大きな袋が積み上げられているのが目に飛び込んできた。

 

白地のその袋には、毛筆でびっしり黒々とあの文字が書いてあった。

 

その袋が踊り場に3つ、4つ、いや、薄明かりの中で視線を上にやると、上階への階段にも同じ袋が積み上げられていた。

 

これは、シーツなどを入れるリネン袋かと思った。しかし形がおかしい。

 

パンパンに全体が膨らむのではなく、ところどころがいびつに突起したり一部が丸く隆起した形状になってる。

 

何だか階段に腰掛けるように置かれた袋や横たわるように置かれた袋もある。

 

中に入っているものがシーツの類ではこうはならない。

 

かといって鉄のような硬い物とも違う。

 

袋の布地にはびっしりとあの漢字の羅列だ。

 

なんだ?不意の事態にまったく理解できないまま、俺はあっけにとられていた。

 

そのうちに、何故かはわからないが、俺は見てはいけない物を見ている気がしてきた。

 

それは嫌なことに、目が慣れるにつれて確信に変わった。

 

俺は明かりの届く上階への階段をずっと見ていたのだが、下階の明かりの届かない踊り場の暗闇で、さっきから誰かがじっと俺を見ているのだ。

 

俺は目の端で、暗闇に浮かぶそいつの影を捉えてしまった。

 

絶対に目を合わせてはいけないと必死になると、低くかすれた音、喉から漏れるような「ううう」という声がした。

 

その時、力んで凝視していた目の前の袋の幾つものシワがウネっとした。

 

…俺はその場から逃げて部屋の隅で一夜を過ごした。

 

後で調べて、あの漢字に見えたものは梵字だろうかと思った。

 

でも、その文字の意味はわからないままだ。

 

 

 

 

カラオケ屋の方の話

 

409 :本当にあった怖い名無し:2010/06/02(水) 11:22:51 ID:8p5hMd4QQ

 

体験談というか現在進行形なんだがこれが原因でバイト辞めようか悩んでる…

 

心霊どうこうじゃないし、やたら長いし、話のネタにもならないかもしれないけど暇つぶし程度にでも聞いてほしい 

 

焼肉屋とカラオケ屋で掛け持ちバイトしてるんだが、カラオケ屋の方の話 

 

個人経営のそんなでかくないカラオケ屋で従業員は店長除いて男三人女一人の合計四人

 

早番専門に俺と今年始めに入ったKって女、遅番専門で古株のYとRって男がシフト入ってて、平日は早番遅番交代で一人ずつ、週末や祝日は全員出勤 

 

つまり早番の俺は木曜金曜が一人で出勤、土日はKと出勤になってる 

 

正直今彼女もいないし、女の子と同じシフトに入れるのは嬉しいんだけどKはちょっと変わった奴で、中々かわいい顔立ちをしてるのに目の下はいつもクマなのか黒っぽくて、行動がぜんまいで動く玩具っぽくてかなりそそっかしい

 

彼氏と同棲してるみたいなんだけど、噂によると彼氏ってのが去年事故って軽い後遺症が残ってるらしい 

 

三年半付き合ってると聞いたが彼氏溺愛らしく以前ふざけて「同棲してる女働かすような経済力のない男なんか別れちまえよww」って言ったらマジギレされてみぞおちにモップの柄が減り込んだ 

 

そんなちょっと変わったところもあるが、他は普通に明るいし面白いしなんか小動物っぽくてかわいい奴だ 

 

前置きが長くなったが、土日祝日はKと一緒のシフトに入る

 

田舎の暇なカラオケ屋でも週末は混むもんで、店内の清掃も客の相手も二人で手分けしてやらなきゃさすが仕事がまわらない程度には忙しくなる 

 

でも先週末、外が大荒れで土曜日なのに客が全然来なかった(うちはほぼ免許のない徒歩で来る客がメインだからかなり天候が客足に影響する)相手する客もいないし本当に暇でKと雑談しながらだらだらのんびり店内の掃除してた 

 

410 :本当にあった怖い名無し:2010/06/02(水) 11:26:47 ID:8p5hMd4QQ

 

午後になっても客はこなくて、下廊下を暇そうに棒雑巾で拭いてるKに休憩入るって伝えようと階段下を覗き込んだ時に始めて気が付いた 

 

Kの掃除した床はワックスでもかけたのかってくらいピカピカで思わずため息が出るくらい綺麗になってるんだ

 

Kが掃除した2階トイレや厨房も覗いてみたらそこも見事にピカピカ

 

いつもは掃除が終わるや否や客が踏んで歩いて汚すからわからなかった 

 

それに比べたら俺が丹精込めて磨いた床なんてくすんでて哀れだった

 

店長が俺に口をすっぱくしてもっと丁寧に掃除しろよと言う理由がやっとわかった 

 

つぎの日も天気は悪くて客足もさっぱり

 

あまりに暇だから気合いをいれて掃除を始めたがKが掃除した床の足元レベル程も綺麗にならない 

 

なんか悔しくて、暇つぶしがてらKの下廊下の掃除を開始から終了までじっくり観察してその見事な掃除術を盗もうかって考えたんだ

 

店には掃除用具室ってのがあって、その部屋には四畳くらいの狭い部屋に簡易洗面台とトイレ掃除の道具以外の掃除用具が全部入ってる 

 

Kがトイレ掃除を終えて掃除用具室に入るのを見計らってドアの隙間からこっそり中を覗いた

 

この時はバケツと雑巾持って掃除用具室から出てようとするKを脅かしてやるつもりだったんだ 

 

掃除用具室に入ったKはバケツに水を溜めだし棒雑巾の柄からせっせと雑巾を外していた

 

俺はKの無防備な背中をみると悪戯心がどんどん沸いて来て笑い出しそうになるのを必死に堪えてたんだが、Kは突然ポケットの中から赤黒い液体が半分くらい 入ったコーヒー缶くらいの小さいボトルを出した 

 

俺は一瞬「マイ洗剤かよ!ピカピカの床の秘密暴いたぞ!」なんて思った

 

あとで分けてもらおうかとかも

 

Kはバケツに溜めた水にボトルの中身をドバドバと大半注いでいた、入れすぎだろって位 

 

そして外した雑巾をバケツにいれて何か独り言をいいながらじゃぶじゃぶ雑巾を洗い始めた 

 

Kは普段から独り言が多い奴だから別に不思議にも思わず何気なく耳を澄ましてみたら繰り返し「○○しね○○しね○○しね」って呟いてた

 

ちなみに○○は店長の名前

 

415 :本当にあった怖い名無し:2010/06/02(水) 12:16:01 ID:8p5hMd4QQ

 

画面黒くなるなんなんだよ

 

とりあえず続きを… 

 

俺からはKの後ろ姿しか見えなかったからどんな顔してたかはわかない

 

でも、しねしねって呟く合間に何か明石さんまがよくやる引き笑いみたいな声が聞こえてきて

 

めちゃくちゃ怖くなってなるべく足音立てないように厨房に戻ってカルピス飲んだ 

 

結局いつも通り仕事を終えてYとRに引き継ぎをして店長とKと仕事終わりの定番の雑談タイムを過ごした 

 

Kはいつもと変わらず店長にも俺にもニコニコと愛想を振り撒きながら面白おかしい話を語った

 

店長への呪詛を吐きつづけた口で 

 

しばらくして店長は一旦自宅へ、俺はKと同じ時間に帰るのがなんとなく怖くて、Yの休憩時間まで待ってYと話してから帰るつもりだったから店に残った

 

Kは彼氏が待ってるからと言って帰る支度をした 

 

お疲れと言う俺に、いつもはお疲れ様ですと明るい声と愛嬌たっぷりの笑顔が返ってくるんだが鞄を持ったKはぴくりとも動かなくない

 

立ち上がった状態で俺の前に棒立ちしてるKが今までで始めて聞くような低い声で「覗きって最低だと思いません?」と呟いたんだ 

 

416 :本当にあった怖い名無し:2010/06 /02(水) 12:17:30 ID:8p5hMd4QQ

 

後は一言も言わず早足で帰って行った 

 

その後ずっと頭がぼんやりして動けないでいるとYが事務所に入ってきた 

 

おれはYに泣きついてその日あった全てを話した

 

Yによれば、あくまで噂の領域だがKの彼氏が事故った相手ってのはどうやら店長らしい

 

事故は10:0でKの彼氏が悪かったらしいけど… 

 

彼氏の事を聞く度曖昧に笑って話を濁すKの態度を思い出してなんだかただの噂じゃない気がして本当に怖くて怖くて 

 

あの液体何?店長は何も知らずにKを雇ったのか?Kはなんのためにこの店に来た? 

 

土曜日の夜からKからメールと電話がかなり来てる

 

もちろんでないし、メールも読まない

 

でも削除しようとしてうっかり開いたとき「見ましたよね」って文面が見えた

 

この休日中一歩も外出してない

 

狭い田舎町だしKに会いそうな気がして 

 

怖いし土曜またKと同じ時間に仕事かと思うと憂鬱だ長々と付き合ってくれてありがとう